第48話「おうちに帰ろう」 @百物語2011本編
著:よもや ◆t7bs99KZl0wn
— 再び、爺様から聞いた話。親友の方の体験談 —
【1/3】
硫黄島(いおうとう)。
ここは、先の戦争にて亡くなられた方のお骨がまだ埋まっている。
ある悪天候の日、着陸しようとする機体があった。
車ですら、悪天候での運転は細心の注意を払い、気を使う。
ましてや、必要最小限の設備しかない硫黄島に、飛行機で着陸するならば
その気遣いは半端ではない。
自分の機位、姿勢、全てにおいて通常以上の注意を払わねばならない。
そんな中、ぽつり、ぽつりと灯(あかり)が見えてくる。
機位確認。最終チェック。
機体が滑走路に近づき、滑走路灯が見えたところで着陸。
無事に着いて、ふと先ほどの灯を見ると、コースの誘導に
ベストの位置ではあったのだが、そこには…
設置された灯は、なかった。
では、あれは…。
任務を済ませ、本土に帰る日。
積荷が計算よりも重たく感じる。操縦桿に伝わる重さが違うのだ。
感覚的に、滑走路一杯使って離陸したくなる。
飛行中も、気を使う。
だが、本土に帰ると、本当に、本当に一気に軽くなるのだ。
御霊(みたま)がきっと、愛しい家族の下へ戻っていかれたのだろう。
それ以来、硫黄島に飛ぶことがある日は、帰りに
「どうぞ、○○(地名)まで自分は戻ります。一緒に行かれる方はどうぞ。」
と声を掛けてから戻った。
その時は、ちょっと楽しそうな、嬉しそうなざわめきのような
雰囲気が感じられたという。
そして退官する日、「今まで有難う」「お疲れ様」という言葉を、
聞きなれた同僚の声以外からも、贈られたそうだ。
[ 完 ]
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