第50話「玄関先の老婆」 @百物語2011本編
著:4コ卵 ◆hcYOhjUtjg
うちの母が私を産んだばかりの年のお盆に、実家に里帰りした時の話しです。
当時の母の実家は、祖父が退職時に購入した平屋の中古物件でした。
既に母は嫁いで家を出ていたので、母がその家に泊まるのは、その日が初めてでした。
姉妹全員が集まった事もあり、祖母を含む女性達は、全員で縁側付きの部屋に集まって寝る事にし、
遅くまでおしゃべりを楽しんで、眠りについたのは日付が変わってからだったそうです。
台所に一番近いところに祖母が寝て、間に姉妹が、母は縁側に一番近い位置で寝ていました。
初めて泊まる部屋で、母はなんとなく寝つけず、何度も寝返りを打っていたそうです。
少しウトウトしかけた時、ふいに足元の襖が開く気配がしました。
母がそちらに目を向けると、開いた襖の向う…玄関のある板の間から、誰かがこちらを覗き込んで
いるのが見えました。
『おかあさん…?部屋が狭いから、一人であっちに移ったのかしら?』
覗き込んだ人影が、なんとなく年輩の女性っぽかったのと、覗き込んでいた位置が、随分下の方だったため、
祖母が板の間から寝そべったままで、襖を開けてこちらを覗き込んでいるのだと母は思いました。
突然その人影が、這うようにして部屋に入って来て、一番台所に近い所で寝ていた者の傍ににじり寄りました。
そちらに目を向けると、寝ていたのは祖母でした。
では、今入って来たのは…?そう思った瞬間、体が金縛りに遭ったかのように動かなくなりました。
その人影は、向こう側から順に、一人一人顔を確認するように覗き込んでは移動を繰り返し、とうとう母の
ところまでやって来ました。
人影は、老婆でした。
老婆は母の足元から少しずつ這い上がって来ます。その重さたるや、とても老婆のものとは思えず、胸が潰さ
れて息が出来ない程です。
そして老婆は母の顔を覗き込むと、ニタ〜ッといやらしい笑みを浮かべました。
…母はそこで気が遠くなり、気付いたら朝だったそうなのですが、あまりにも胸が苦しいので、念のため病院に
行って検査をしたら
『まるでもの凄い力で締め付けられたみたいに、胃が上に上がってますよ。』
と言われたそうです。
その後、祖父がその家を買う前に住んでいた人が、嫁姑の仲がたいそう悪かったのだという話しを近所の人
に聞いたそうです。
気の強いお嫁さんは、玄関先の狭い板の間にお姑さんを閉じ込め、他の部屋には絶対に入らせないようにして、
自分は縁側や勝手口から出入りをしていたそうです。
お姑さんは寒い玄関先で不自由な生活を強いられ、とうとう体を壊して亡くなってしまいました。
近所の人の話しでは、お嫁さんはうちの母にちょっと雰囲気が似た人だったそうです。
ひょっとしたら、あの時老婆はお嫁さんの顔を確認してまわっていたのかもしれません。
-おわり-
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