第56話「旅客機」  @百物語2011本編

著:鳩太 ◆CHiCKevu8g  


215 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 01:43:18.82 ID:hPkmSRgw0
鳩太 ◆CHiCKevu8g様

タイトル「旅客機」
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小学校4年生のときの話。
その時は、体育の時間で校庭で体操をしていた。
真夏日で、ギラギラとする太陽光が見えそうなほどだったのを覚えている。
焼け付いたグラウンドで、僕ら生徒は校舎のほうを向き、先生の動きに合わせて汗を流していた。

突然、巨大なジャンボジェット機が校庭の裏山の方から校舎を超えてすっと姿を現した。
空を覆いつくすほど大きく、飛行機の陰で暗くなったグラウンドで僕らは一斉に声をあげた。
「飛行機だ!ジャンボジェット機だ!」
「すごい!すごいよ!」

しかし。
——極端な低空飛行だった。校舎の屋上に機体を擦りそうなほどに。
こちらから操縦席や乗客室の窓ガラスがはっきりと見える。

白いボディに青いラインのある機体だった。

飛行機はその後、向こうの空へ飛んでいき、やがて見えなくなった。
僕らはその後、飛行機のことをしばしば興奮気味に話したのを覚えている。

216 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 01:43:59.59 ID:hPkmSRgw0
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大人になってもそのことは不思議だった。
学校の裏手は山なのであり、周りは住宅地である。あれほどの低空飛行で飛べるはずがなく、
さらにジェットエンジン付の飛行機なのである。あのような飛行は不可能なはずだ。
しかし、しっかりとこの目で見た。
青いラインの曲がり加減や、その色合いまではっきり覚えていた。

僕だけでなく、未だに何人か覚えている友人達もいたこともさらに不思議がらせた。
あの真夏日に見た飛行機は一体何だったのだろう。

ある時、その飛行機の容姿をあまりにはっきりと覚えていたため、調べたことがある。
インターネットで「旅客機」と検索し、ひたすらに旅客機の写真をクリックしていった。
——ある写真で指が止まる。
イギリスの旅客機を写した写真。
機体の細かい所までも寸分違わぬものだった。

しかし、調べたところ僕のいた小学校を通るイギリス国際便の航路は存在しない……。

そして、思い出すと飛行機が飛んでいるときには全く音がしていなかった。
ジェットエンジン付であるはずの機体は無音のまま僕らの頭上を飛んでいったのである。

だが、未だに、真夏日の焦げ付くようなグラウンドで見た音もなく飛ぶ機影はしっかりと
僕の脳内に焼き付いて離れない。




218 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 01:44:40.36 ID:hPkmSRgw0
【完】