第65話「臭い」  @百物語2011本編

著:コッソリ ◆.PiLQRq.0A  


245 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 02:21:25.56 ID:hPkmSRgw0
コッソリ ◆.PiLQRq.0A様

題名:【臭い】

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僕が小学校3年の頃、ある友人がいました。仮に、彼の名前をT君としておきます。
T君は身体を動かすことがとても好きで、彼と遊ぶ時はいつも外を走り回っていました。


ある日、秋の深まった頃、僕はT君は二人で遊んでいました。
いつもは他に何人か友達がいるのですが、その日はみんな都合があって来られなかったのです。
大勢であれば色々な遊びもできるのですが、二人となるとそう面白い遊びもできません。
最初の内は二人で雑草を棒でなぎ払ったり、そこらの土管に潜り込んだりして遊んでいましたが、やがて二人とも飽きてきました。


辺りも徐々に暗くなってきたので、今日はそろそろ帰ろうかなぁ、と思っているとT君が
「…そうだ、うちに来ない?」
そう尋ねてきました。
彼の家に誘われるのは初めてだったので、僕はワクワクしながら彼の提案を受けました。


T君に先導されて辿り着いたのは古びた団地でした。
彼の部屋まで付いて行くと、T君はズボンのポケットから鍵を取り出し
「親、いないから」
そう言って、僕を家へと招き入れました。


家に入って最初に気が付いたのは、臭いでした。
まるで何かが腐っているような、鼻につく嫌な臭い。
T君はまるで何も感じていないように、いつもと同じ様子で僕を自分の部屋へと招きました。
家中に充満する饐えた臭いに閉口しながら、僕はT君の部屋へと足を踏み入れました。


246 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 02:22:10.83 ID:hPkmSRgw0
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彼の部屋へ入った瞬間、臭いはより強く、鮮明になりました。
目に刺さるほどに強く、吐き気を催すような、そんな臭い。
アンモニアのような、肉の腐ったような、そんな臭い。
この部屋が臭いの発生源であるような、そんな感じすらしました。

僕はT君に
「ねぇ、何かこの部屋臭わない?」と思わず尋ねました。
子供だったので、遠慮も何もなかったのですが、
今にして思えば、怒られてもおかしくない失言だったと思います。
しかし、T君は全く激昂する様子もなく
「あぁ、分かるんだ」
と答えました。

まるで宝物の在り処を明かすときの様に、T君は少し笑ってから答えました。
「この部屋さぁ、ずっと昔に自殺があったんだって。それで、臭いが取れないんだよ」

クスクスと笑いながらT君は電灯の紐を引きました。
パチパチッ、という軽い音の後、室内を蛍光灯の光が照らしました。
「まぁ嘘だけど。臭いなんてしなくない?」
そんなことをT君は言っていたような気がします。
僕はその言葉をしっかり聴かずに、T君の家を飛び出していました。
蛍光灯に照らされた室内にできるT君の影。
その影の右上、天井からぶら下がる、もう一人の影が揺れていました。


それ以来、T君とは距離を置くようになり関係は次第に薄れていきました。
彼は小学校が終わる前に引っ越しましたが、彼の住んでいたあの団地は、今も街の片隅に建っています。


【了】