第65話「臭い」 @百物語2011本編
著:コッソリ ◆.PiLQRq.0A
題名:【臭い】
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僕が小学校3年の頃、ある友人がいました。仮に、彼の名前をT君としておきます。
T君は身体を動かすことがとても好きで、彼と遊ぶ時はいつも外を走り回っていました。
ある日、秋の深まった頃、僕はT君は二人で遊んでいました。
いつもは他に何人か友達がいるのですが、その日はみんな都合があって来られなかったのです。
大勢であれば色々な遊びもできるのですが、二人となるとそう面白い遊びもできません。
最初の内は二人で雑草を棒でなぎ払ったり、そこらの土管に潜り込んだりして遊んでいましたが、やがて二人とも飽きてきました。
辺りも徐々に暗くなってきたので、今日はそろそろ帰ろうかなぁ、と思っているとT君が
「…そうだ、うちに来ない?」
そう尋ねてきました。
彼の家に誘われるのは初めてだったので、僕はワクワクしながら彼の提案を受けました。
T君に先導されて辿り着いたのは古びた団地でした。
彼の部屋まで付いて行くと、T君はズボンのポケットから鍵を取り出し
「親、いないから」
そう言って、僕を家へと招き入れました。
家に入って最初に気が付いたのは、臭いでした。
まるで何かが腐っているような、鼻につく嫌な臭い。
T君はまるで何も感じていないように、いつもと同じ様子で僕を自分の部屋へと招きました。
家中に充満する饐えた臭いに閉口しながら、僕はT君の部屋へと足を踏み入れました。
彼の部屋へ入った瞬間、臭いはより強く、鮮明になりました。
目に刺さるほどに強く、吐き気を催すような、そんな臭い。
アンモニアのような、肉の腐ったような、そんな臭い。
この部屋が臭いの発生源であるような、そんな感じすらしました。
僕はT君に
「ねぇ、何かこの部屋臭わない?」と思わず尋ねました。
子供だったので、遠慮も何もなかったのですが、
今にして思えば、怒られてもおかしくない失言だったと思います。
しかし、T君は全く激昂する様子もなく
「あぁ、分かるんだ」
と答えました。
まるで宝物の在り処を明かすときの様に、T君は少し笑ってから答えました。
「この部屋さぁ、ずっと昔に自殺があったんだって。それで、臭いが取れないんだよ」
クスクスと笑いながらT君は電灯の紐を引きました。
パチパチッ、という軽い音の後、室内を蛍光灯の光が照らしました。
「まぁ嘘だけど。臭いなんてしなくない?」
そんなことをT君は言っていたような気がします。
僕はその言葉をしっかり聴かずに、T君の家を飛び出していました。
蛍光灯に照らされた室内にできるT君の影。
その影の右上、天井からぶら下がる、もう一人の影が揺れていました。
それ以来、T君とは距離を置くようになり関係は次第に薄れていきました。
彼は小学校が終わる前に引っ越しましたが、彼の住んでいたあの団地は、今も街の片隅に建っています。
【了】
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