第68話「工場」  @百物語2011本編

著:半兵衛 ◆B/.3uvv0Gk  


254 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 02:43:27.29 ID:hPkmSRgw0
半兵衛 ◆B/.3uvv0Gk 1様

【工場】
 私は製造業の会社に勤めています。
会社は昭和初期に建てられた古い工場と、最近建った開発棟が併設されています。
私は開発棟にて、主に試作品を作製する仕事をしています。
とある金曜日の夜、試作品の部品が壊れてしまいました。
月曜日には完成品を使用する必要があり、部品をあらためて購入する時間はありませんでした。
仕方なく私は工場に予備の部品が無いか、探しに行きました。
金曜日の夜ということもあって、すでに工場は真っ暗で、人気もありません。
予備の部品がありそうな場所は、工場の奥まったところにある倉庫でした。
倉庫は蛍光灯が1本あるだけで、かなり薄暗い状態でした。
倉庫の中で部品を探しましたが、なかなか見付かりません。
時間だけがどんどん経ち、次第にあせってきます。このままでは徹夜どころか、上司から大目玉をくらうことは明らかです。
私は半べそ状態で、なお部品を探し続けました。
そのとき不意に肩をたたかれたような気がしました。
後ろを振り向きましたが、誰もいません。
気のせいかと思い、また部品を探そうとしたときです。
視界の端、ちょうど倉庫の中央あたりに、縦に細長い影が立っているように見えました。
その瞬間、「ゴトッ」と何か物音がしました。
私は驚いて倉庫から飛び出しました。
しかし、どう考えても部品がありそうな場所は、この倉庫しかありません。
仕方なく再度倉庫に入ると、今度は予備の部品があっさり見付かりました。
その場所は中央の棚の付近で、しかも部品は一番手前に置いてありました。
ほっとして、開発棟に戻り、なんとかその日のうちに試作品を完成することが出来ました。
今思うと、遥か昔の先輩が後輩を不憫に思って、部品の場所を教えてくれたのかも知れません。(終わり)