第70話「黒い丸」 @百物語2011本編
著:れらら
黒い丸 1/3
今から10年ほど前、まだ大学生だった頃に後輩のA君から聞いた話です。
神奈川県の海沿いにある某大学。その大学のサッカー部は、代々先輩が卒業すると
それまで使っていたアパートの部屋を、新入生へ引き継ぐ伝統がありました。
その部屋は2人で使う為に古い二段ベットが置かれており、その年はA君と
同じくサッカー部に入部した新入生のB君が使う事になりました。
まだ新入生という事もあり、それほど話した事もない二人は、部活を終えれば
それぞれ別に食事を取り、アパートには寝るために戻る日が続きました。
A君は二段ベットの下、B君は二段ベットの上。
2,3ヶ月が経った頃。A君が深夜に目を覚ますと、B君が机でなにやら書きものを
しているのを見つけました。日記か何かだろうと思い、その日はそのまま寝ましたが
日に日に部活で見るB君の様子がおかしくなっていったそうです。
そして深夜には机に向かい、必死な形相で、殴り書くようにペンを動かしていました。
A君はその姿を見て怖くなり、部活の先輩に相談し、先輩と一緒にB君から事情を
聞いてみる事になりました。A君は相当精神的に参っていた様子で、泣きながら
此れまでの奇行の理由を教えてくれました。
B君がアパートに越してから数週間後、アパートの外で足音が聞こえるようになったそうです。
その足音は日に日に自分たちの部屋に近づいて来ており、一ヶ月前くらいからドアの戸を
ガチャリ、ガチャリと開けようとしており、何度か恐々と姿を見に行ったことがあったそうですが
ドアスコープには誰も映っていなかったそうです。
日記を書き始めたのは一週間ほど前、ついに姿を見てしまったそうです。
いつものように通路を足音が近づき、ドアをガチャガチャと回し、そして部屋の中へ
ベチャ…ベチャ…と、濡れたモップを引き摺るような音が聞こえてきたそうで、ベットで布団を被り
震えながら何処かへ遠ざかるのを待っていたそうです。
しかし、その音は二段ベットの梯子へ近づき、ベチャ…ベチャ…と、梯子を上ってきたと
梯子の段数など4,5段程度なのに、その音は10分近い時間を掛けて、ベチャ…ベチャ…と
登り、ついに足音が止まったときには、明らかにベット脇に気配があったそうです。
ジッ……と、こちらを見続ける気配に耐え切れず、数分後目を開けてみてみると
真っ黒い、巨大な毛むくじゃらのモノが、ジッ…とB君を見ていたそうです。
金縛りにあったように動けなくなり、恐怖で背筋が凍ったまま目を離すこともできず
B君は心の中で知りうる限りの神様、仏様へ祈り「消えてくれ!」と祈ったそうです。
それでも黒い毛むくじゃらの怪物は消えず、にやにやと笑いながら
「そんなの効かないよ」
と、笑いながら呟いたかと思えば、段々とふくらみ、パンッ…と弾けてしまったとか
その後、飛び起きてA君を起こしに梯子を降りると、地面は水をまいたように地面が濡れており
A君は寝ぼけ眼で起こされたそうですが、気配すら気がつかず「何で地面が濡れてるの?」
とか言っていたので、それ以降相談もしなかったとか…。
日記の内容を見せて貰うと、黒いペンで紙の破れるほどの筆圧でグチャグチャと
丸が書かれており、B君もなんで書いたのか覚えていないと言っていたそうですが…
今度はその日記の黒モジャを見て、先輩が真っ青になったとか
なんでも、先輩が一年だった頃、理由不明の自殺をした部員がいたそうで
彼の使っていたのもこの部屋、しかも2段ベットの上だったとか…
それからB君が使うようになるまで、荷物置き場になっていたそうです。
自殺した部員と懇意だった先輩が荷物を整理にしこの部屋へ来たときに見たのが
「あいつが来る」「殺される、殺される」
と書かれた日記で、同じようにグチャグチャと塗りつぶすように描かれた
黒い丸があったのだとか…
【終わり】
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