第75話「できごころ」 @百物語2011本編
著:匿名希望
『 で き ご こ ろ 』
経理部の田所洋子さんは、私が実話怪談マニアだと知り相談したい事があると言う。
彼女はワンルームマンションで独り暮らしをしている。
引越をしたその日の夜からそれは現れた。パタパタパタと布団の周りを子供が走り回る。
姿を見てはいないのだが、何故か子供だと判ると言う。子供は月二ぐらいのペースで現れた。
「それに絶妙なタイミングなの。」
必ず洋子さんが眠りに落ちそうになると走り回る。
夢うつつで足音を聞いていて、ハッと我に返ると消えるのだ。
現実に起こっている事なのか確信が持てなかった。
「だから恐怖心みたいなものは無かったのよね。」
その日も、うつらうつらしていると 布団の周りをパタパタパタと走る足音が聞こえてきた。
ほんの出来心だったと言う。
五月蠅い。転ばしてやろうと足を出した。ドスッ!と何かがぶつかった。
「衝撃がリアルで吃驚して飛び上がっちゃった。」
壁に頭をめり込ませて倒れている子供がいた。
両手両足をじたばたともがいている。
「わーッて叫びながら電気を付けたら消えていたんだよね。」
その後二度と現れる事は無かった。
「あれが座敷童だとしたら幸せを逃したのかなぁ。
どうしたら戻ってくると思う。」
座敷童なのか疑問だが、とりあえずお菓子でも置いておけばと答えておいた。
根拠は無いんだけど。
今でも彼女は部屋の片隅にお菓子と玩具を置いている。
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