第80話「肝試しで有名な場所では」 @百物語2011本編
著:枯野 ◆BxZntdZHxQ
もう10年近く昔のことだろうか。
従妹の美保が劇団もどきのサークルにいたことがある。
もどき、というのは大掛かりな公演などをやらず、
ネットに朗読劇などを上げるのが主な活動内容だったからだ。
このサークルに籍を置いていた頃、親睦会と称して心霊スポット巡りをしたそうだ。
別にホラーの朗読をやっていた訳ではない。
今考えるとちょっとどうかと思うが、
有名なバトル漫画の戦闘シーンをラジオドラマ風に演じたり、
やたら独白の多い少女漫画を朗読したり、そんな遊びをするサークルである。
取材とか役作りとかではなく、どうやら主宰の趣味だったようだ。
そんな親睦会で、印象に残った場所がいくつかあると美保は言う。
たとえば、ハイキングコースの途中にある公園。
元々はお寺の別院があった場所だが、
現在はその痕跡と石碑や地蔵があるだけである。
一行は夏の夜、その近くまで車で乗り付けた。宵の口だ。
辺りにはガードレール沿いに何台も車が止まっていて、
どうやら同じ様な目的の連中が集まっているらしい。
肝試しである。
チキンの俺からすれば、怪談の定型も定型の、
夜の心霊スポットに男女が車で乗り付けて馬鹿騒ぎなんてのは、
ちょっと間違ってるが鴨が自ら葱を背負って鍋に出汁を張っているようなものだ。
つい「馬鹿じゃないの?」と口をついたら、美保も苦笑いして、
「主宰がそう言う体験したことなくて、大好きなんだよな。
あれこれ訊かれてうんざりした人もいるから、
本当は見えたりした人でも主宰には黙ってるし、
黙ってるから行くのを断りきれないって言うか。」
見えないから見たい。お前らも見たいだろう。じゃあ行こう。
そう言うことだ。
何だか気の毒になって来たが、こういうのは心霊ばかりの話ではない。
起伏のある道を進むと、先の方から話し声が聞こえた。
先客も賑やかだ。
結構な人数であろうざわめきと、若い女のはしゃぐ声がする。
足場の悪い坂道で息があがり自然と無口になった一行の中で、
美保は(DQNは無駄に体力あるよな)と先行グループの元気さに苦笑したという。
そうこうするうちに目前に石段が現れ、石段を上がると開けた場所に出た。
そこが目的地。
遊具などはないが、ベンチがそこかしこにある公園だ。
公園は静かだった。
ぽつりぽつりと灯る街灯の下、神社だか寺だかであった痕跡の石灯籠が並んでいる。
見晴し台になっている崖側も含め雑木林に囲まれた夜の公園は、
鬱蒼と影に覆われ、ひっそりと静まり返っていた。
公園から縦走するコースへ入る山道は真っ暗で、唸る様な虫の声だけが響いている。
足音も、話し声も聴こえない。
ついさっきまで聴こえていたざわめきの主はどこへ行ったのか。
暫く辺りを散策したり立ち話をしていたそうだが、山道から戻って来る者はなく、
石段を下り元来た道を帰る時も、それと思しきグループと出会う事はなかった。
肝試しで有名な場所に行くと、そんなことが度々あったと言う。
【完】
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