第1話「夏の風景」 @百物語2011本編
著:昨日の人 ◆3wiF1V29nQ
小学校低学年の頃のお話。
妹(ちい)を連れて市民プールへ遊びに行った帰り道。
遠くで蝉がシワシワ鳴いている、何処までも続く田んぼ道。
急に風が冷たくなってきたので(雷(らい)さまがきそうだー。)と思った。
(これ以上は早くこげんー。)後ろに妹を乗せた私は既に立ち漕ぎ状態だ。
「間に合わなかったら一本(いっぽん)さんなー。ちい、落ちるなよー。」後ろを向き妹に言う。
ギュッと私のシャツをつかみ返して「にいちゃん、降りようか?」と聞き返してくる。
「カラータイマーはまだふつーだ!」兄の意地。
一本さんが見える頃には、空は暗く時折シカッゴロゴロゴロと眩しい位に輝いた。
「雷さま早いから、一本さんとこで雨宿りするぞー。」「うん。」
一本さんの道を挟んで斜め前に、それはそれはボロボロのトタン屋根。
小さなバス停に二人で逃げ込んだ。埃の匂いと共に大粒の雨が降り出した。
一本さんは田んぼの真ん中にある、大きな栗の木。根元に小さな御キツネ様が奉られている。
四方を見渡しても田園が彼方まで広がっている。広大な田園の中に一本さんと道を挟んでボロバス停。
妹と入ったバス停も雨宿り程度なら心配要らないようだった。いつもの夕立なら。
雷さまと夕立は、この辺なら当たり前に夏の夕方にくる。雷さまが鳴り出し、物凄い雨が降り、
あっという間(30分〜1時間程度)に去って行く。だけど今回は雷さまが止まない、近い。
雨が降り出せば雷さまは遠のく、はずなんだけど。
シカッッ!ドンッッ!!キカッッ!ドゴーン!!
眩しいストロボを焚かれたかと思えば、お腹を飛ばされるような衝撃。光と音が近い。
「にいちゃん、一本さんあぶない!」妹が叫ぶ。釣られて一本さんを見た。
ピッッッシュルルルルゴッ!ッズズゥゥゥン・・・
距離にしても子供の歩幅で20m離れていない、一本さんに直撃した。
音が聞こえない。豪雨も雷さまの音も聞こえないィイーンって音しか聞こえない。
片手で私のシャツを掴んだままの妹が指差す、一本さんの木を。
一本さんの木の根元には青く光るの子供がいた。
その子はしばらく木の周りをウロウロすると、顔を覆うように泣き出したように見えた。
「・・・ぃいちゃん!にいちゃん!一本さん!」やっと耳が聞こえた。妹が叫んでいる。
「一本さんこっちへ来てー!」「一本さん早くこっちへー!」わけも分からず兄妹で子供に叫び続けた。
木の焼けた匂いがした。一本さんに雷さま落ちたのかってあらためて感じた。
一本さんは私たちを見ると、今度はこっちへ来いと手招きをしていた。
「にいちゃん、いこ!一本さんとこいこ!」圧倒され妹をおぶって道を横切った。
ッキシャッッッ!ドンッッ!!
今まで居たバス停が無くなった・・・子供も・・・
帰り道今までの空が嘘のよう、妹を乗せ家路につく。
翌日兄妹どちらからともなく「一本さんとこいこ」となった。
当時ラムネは20円。瓶代込みの値段だ。二人で小遣い20円。
「一本さん、熱かったから」って置いてきた。
一本さんは落雷で枯れたけど、新芽がそのまま育ってる。
今でも田園の只中に小さくなっちゃったけど、一本さんはあります。
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