第18話「住職」 @百物語2011本編
著:空色 ◆p4Tyoe2BOE
ある事情で、幽霊が出ると言う家に住むことになった。
本当に怖い思いもしたのだけど、その時にアル中じゃないかってくらい酒が好きな住職にお世話になった。
背中に大怪我をしたりしたけど、その時に助けてくれたのはその住職だった。
幽霊屋敷を出ることになってしばらく、私はようやく落ち着いた生活ができるようになった。
住職とは二ヶ月くらいは連絡を取らなかったと思う。
その日、どうしても幽霊屋敷にいけなくてはいけない事になっていた。
私の土地、ということになるので下見みたいなものだ。
初めてこの家に来るAさんという人と一緒で、お互い結構緊張していた。
ぼろぼろの家だし、中ではかなり怖い目にあった。
住職の話では、特に危害はないだろうって事なので中に入って見学…みたいな話だった。
Aさんも肝試しみたいだね、なんて冗談を言いながら中を見て回った。
中で傷害事件もあったし、そのままで放置されていたので変なにおいもした。
「本当に出るんですか?」
なんて聞かれて、さぁとしか答えることが出来なかった。
昼間だし、そんなに怖いことは起こらないだろうって思っていたし。
家の惨状について説明しながら、丁度二階に行こうとしていた時に、突然叫び声が聞こえた。
家に来たのはAと二人っきりなので、当然第三者の叫び声となる。
というか、前にもこんなことあったな…と、背筋が寒くなる。
Aさんも長く続いている『うおー!』見たいな叫び声に、ぞっとしてきたみたい。
どうしようかって顔を見合わせた途端、二階で何かを叩くような音と、走り回る音が聞こえ始めた。
明らかに五、六人騒ぎまくってる感じ。
部外者入れたのがまずかったか!?と、もう青ざめて座り込みそうなAさんの手を引いて外に出る。
そしたら、ぴたっと止まった。
怖くなって車の近くまで避難したけど、家はなんともない。
叫び声も聞こえないし、何も壊れた様子はなかった。
「今のなんですか!?」
「さぁ」
めちゃくちゃ慌てるAさんには申し訳ないけど、それしか言えなかった。
夜ならわかるけど、こんな昼間にってのが正直怖かった。また霊体験が続くのかと本気で泣きそうだった。
その時、地面が大きく揺れた。
地面だけじゃなくって、家もその後ろの林も。
——3・11の本震だった。
少し広い場所まで逃げて、その後ろで幽霊屋敷が倒壊してくのが見えた。
揺れに耐え切れなくって、二回目?の大きな揺れであっけなく倒壊した。
「運良かったですね……」
なんて弁護士さんは言ったけど、どう考えても地震前に追い出されたって感じだった。
住職いわく、私は『気に入られている』らしいので、そのおかげかもしれないけど。ともかく、家と一緒に死ぬことはなかった。
ほっとして余震もそれほど大きいのがないのを確認してから、とりあえず車で山を降りようってなった時に、携帯電話が鳴って出ると本当にタイミングよく住職から電話があった。
『大丈夫か?』
「今の地震大きかったですね。
私は大丈夫ですけど、そちらは平気ですか?」
音が悪くて、雑音が入る。
もともとそこでは携帯の電波が入りにくかったから、気にしなかった。
『絶対にその土地は手放しちゃ駄目だよ。
今は君が居るから落ち着いているから。
遠くへ引っ越すにしても、土地の名義だけは死ぬまで離しては駄目だ』
ああ、来ているの知ってたからだなー、なんて思った。
「はい、わかってます」
答えながら、隣では一生懸命家族と連絡を取ろうとするAさんの姿。
混乱しながら、車に乗り込んで帰ろうとAさんに促される。
「それじゃ一度そちらにも顔を出しますから」
『気持ちだけでいいよ。
それより気をつけて。これから色々あると思うけど、俺は君の味方だから。
ずっと守っててあげるから、安心しなさい。破戒僧だけどね』
酔ってんのかな?とか思いながら、そういってくれたのが嬉しかった。
「ありがとうございます。
それじゃまた」
なんていって、電話を切った。
切ってから今度は知人に電話をしようと思ったけど、電話が通じなくなってた。
山だからとかそういう問題じゃなくって。
地震の影響で、一日くらい携帯では連絡が取れなくなった。
幸いネットやメールで連絡取れる人は大丈夫だったけど。
二日後、最初に住職を紹介してくれた人から連絡があった。
地震の直後に、住職は亡くなったことを教えてもらった。
自宅が倒壊して、亡くなっているのを発見された。後で聞いたら即死だったらしい。
じゃ、昨日の電話は?と確認しても間違いなく十五時代に住職からの着信記録があった。
死んでまで心配してくれたのだろうかと思うと、本当にごめんなさいと思う。
巻き込んでしまったせいで、迷惑かけたし、凄く良くしてもらった。
お礼もしてないのに……。
そう思うと、凄くやりきれない。
家族じゃなくって、こんな他人を気にかけてくれてありがとうございました。
あれからまだ色々あるけど、ちょっと運が良かったりするのは住職のおかげかもしれないと勝手に思うことにしている。
終
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