第25話「無題」 @百物語2011本編
著:169 ◆riBiLQMQ3U
小さい頃、お盆にお墓参りに行ったときの話。
私は家族と一緒に手を合わせていました。
辺りは当然ずらっと並んだお墓。普通なら怖いと感じていたのでしょうが、
お盆らしく、たくさんのお供え物や花をたむけられたお墓は、カラフルで
楽しそうに見えました。
だから、変なものが見えてもあまり怖くなかったのかもしれません。
お線香をあげているときに気づいたのですが、ずっと向こうのお墓の陰から、
白い、人の頭くらいの何かがひょいっひょいっと見え隠れしているのです。
私はおもしろくなってそれをじっと見ていました。と、頭をぽんっと叩かれ
ました。
「お参りちゅうによそ見しちゃ駄目でしょ!」
母がちょっと怖い顔で私を見下ろしていました。
私は素直にごめんなさいと言って、急いでお参りをすませ、またあの白い
ものがいた辺りを見ましたが、もうそこには何も動いていませんでした。
お母さんが怒るからだ…そう思ってがっかりしているうちに、家族全員の
お参りが終わり、みんな水桶やお線香の残りを持って移動し始めました。
私はどうしてもあの白いものがもう一回見たくてぐずぐずしていましたが、
母にせかされ、仕方なくみんなについて歩き出しました。
かなり歩いてから、最後にもう一回!と思って振り返りました。
白い、顔のないものが、こちらに向かって手を振っていました。 【終】
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