第29話「世話になった」  @百物語2011本編

著:毒衣紋 ◆5TLWX9QsC1zc  


118 :毒衣紋 ◆5TLWX9QsC1zc :2011/08/19(金) 23:18:11.21 ID:MVLToZ5A0
[世話になった]

母がまだ若いころに体験した話です。

蒸し暑いお盆の日の夜のこと。
家の外から「シャン・・シャン・・・」という鈴の音が聞こえる。
何事かと思い家の裏口から通りへと出てみると深い靄のなかに人影が見える。
それも1人2人ではない。坂の上から海のほうまで沢山の人の行列である。
とても生きているとは思えないような人たちの…
母は不思議と怖いなどという感情は抱かなかった。
すると、列の中から1人の中年の男が近づいてくるではないか。

「かぁちゃん…かぁちゃん……」
よく見ると先日亡くなった近所のおじさんである。
「かぁちゃん…世話に……なったなぁ」
それだけ言うとおじさんは再び列へと帰って行った。
生前言えなかった礼を言うためにあの世への行列から抜け出して来たのだろう。

母が気づくと布団の中で、朝になっていたそうだ。

【終】