第37話「無題」  @百物語2011本編

著:冷夏30℃ ◆dy8RdA2.M6  


149 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 00:19:57.70 ID:hPkmSRgw0
冷夏30℃ ◆dy8RdA2.M6様

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高校生の時分、同じクラスにオカルト好きな友人がいた。
そいつは俗に言う見える奴で、何者かに階段から突き落とされるなど、日常的に霊的な被害を受けることが多かったらしく
どこかの神社の宮司さんから頂いたらしいお守りをいつも腕や首からぶら下げていたのが印象的だった。
オカルト大好きな癖に髪の先から爪先まで全く0感だった俺は、霊感のある人間の近くにいると霊感の無い人間も感化され霊感を持つようになるという話を信じ、
二年間ほぼ毎日放課後までオカルトから好きなクラスメイトに渡り話に花を咲かせていた。
結果として俺は今現在未だに0感のままこの体質に甘んじている訳だが、
そんな俺でも一度だけ彼と一緒に不可解な体験をしたことを思い出したので回顧録の意味合いも込めここに書きこませて頂きます、前置きが長くなり申し訳ない。

150 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 00:21:14.83 ID:hPkmSRgw0
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高一の秋、十月頃だったと思う。放課後の人気の消え去った教室で俺と彼との二人でいつものように長々とくだらない雑談に耽っていたら、
突然に彼がコックリさんをやろうと言いだした。
正直オカルト的なことに関しては彼から積極的に僕に話を切り出してくることは殆ど無かったから
ほとほと驚いた。
この時から少し嫌な予感はしていたが、でも、
以前から何度も興じてきたものだったし、彼が珍しく俺に働きかけてきたことが気になってすぐにOKした
(ついでに夕日が教室に差し始めたことで雰囲気もなかなか良かった)。
例によって50音字や数字を書き並べた用紙の上に硬貨を置き、
お互いの指を硬貨に重ねる。


151 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 00:21:55.54 ID:hPkmSRgw0
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慣れた台詞を彼が唱え、通常通りならこのまま始められるコックリさんではあるが、何があったのか不意に「目を閉じて!」と彼に怒鳴られた。
彼は霊感持ちと共に、かなりの不思議ちゃんでもあったから、時々よく分からない挙動を取ったり冗談を言うことがよくあり、てっきり今回もその一環だと思ってキョトンとしていたら、「早く」と今度は消え入るような声で言われた。見れば彼も目を閉じていた。
何の気も無く目を閉じた後に気がついたが、彼が真剣に話す時はいつも小さい声でつぶやくようにボソボソと喋るのを思い出して、ひょっとして遂に心霊体験できるのかか!?と少しわくわくしていた。
その瞬間耳元で硬い金属の捻じれるような「ギギギギギギギィィィィィ〜〜〜」という音が響いた。耳元で聴こえているのに、何故か何十mも遠くまで抜けていくかのような音。
あまりに突然のことにすっかりビビり俺は椅子から転げ落ちそうになったが、何とか踏ん張り目を閉じて耐え続けた。
数十秒(実際は数秒かもしれない)程経って音が落ち付きホッとした頃、今度は貧血で倒れこむ時のように意識が途絶えるかのような感覚に突然襲われた。何かが起こっているのは確実で耐え難い恐怖に襲われる。
本当に意識を失いそうだったし限界だった俺は思わず目を開けた、目の前の彼も同じくして目を開けたようだった。
「何か今一瞬意識飛んだり鉄みたいな音しなかった?」と聞かれ、互いに話込んでいくとどうも全く同じ体験をしたと分かった。結局、音の正体も意識のことについて聞いても彼は何故か教えてくれなかった。0感の僕にとってこれが唯一の怪異。
でも、もっと怖かったのは直後に彼が僕の人差し指をカッターで切らせ六芒星のような印が書かれた紙に指を付かせたことだが、高三のクラス替えと同時に袂を分かった現在彼が僕に何をさせたかったのは未だに分からないままでいる。

【了】