第46話「中の人」 @百物語2011本編
著:釣り人 ◆sRCidpIShE
今夜は夜釣りに良い潮なんで張り切って出かけたんだけど
時々小雨も降るし、なんか遠くで雷がピカピカするし、
早々に切り上げて帰ってきたよ。帰りに缶コーヒー買って飲んだら
思い出した話があるんだ。確か98年の冬だったと思う。
釣りに行ったとき利用する自動販売機ってあるかい?
オレの良く行く釣り場は、駐車場の出口近くにいくつか自動販売機がある。
その中に、缶じゃなくて紙コップのコーヒーが買える奴があるんだ。
寒ーい日には釣りの帰りにホットコーヒー買うのが楽しみでさ。
一杯(?)70円で他より安いのも良い。お気に入りの販売機だった訳。
ただ100円玉を入れると10円玉のお釣りがジャラジャラ出てくる。
かじかんだ指で釣り銭取ろうとすると、落としたりして鬱陶しい。
だから50円玉が無い時は、なるべく100玉を1枚と10円玉を2枚入れて
釣り銭は50円玉1枚。これが何だかスカッとして気持ちいい。
でもその日は生憎財布に10円玉が1枚しか入ってなかったんだ。
砂糖入りでミルクは抜きのボタンを押す。いつも通りガタガタ音がして
コーヒー豆を挽いたあと、紙コップが出てきて抽出が始まる。
「釣り銭は10円玉3枚かー」と思ってたら、
その日はカチャッって1回だけ釣り銭の落ちる音がしたんだ。
「あれ?」って感じで釣り銭を取り出したら50円玉が1枚?
「変だな」とは思ったけど別に損した訳じゃないし、何だかラッキーだし。
そうこうしてるうちに「抽出中」のランプが消えたんで紙コップを取り出した。
そしたら...いつもより軽いんだよ、紙コップが。
紙コップの中をみたら、コーヒーが半分くらいしか入ってない。
何とも言えない妙な気持ちになったけど、。寒いし。まあ損はしてないし。
自動販売機の裏側あたりから、ハッキリ聞こえたんだよ。
小学生くらいの女の子の、けたたましい笑い声が...
深夜と言うより朝方に近い時間だ。背中がゾーッと冷たくなって
急いで車に戻って家に帰った。気がついたら袖口がコーヒーで染みになってる。
次の日は休みだったけどさすがに釣りに行く気にはならなかった。
今考えても、あの出来事が何だったのかはわからない。
酒の勢いで友達に話すと「妄想乙」とか「電波君」とか言われるけど、
あの甲高い、女の子の笑い声を思い出すと今でもゾッとするよ。
ま、それでもその釣り場には時々出かける。もうコーヒーは買わないけどね。
うまくいけば指4本〜5本クラスのタチウオが4〜5本釣れるとはいえ、
つくづく業の深い人種なんだよな。釣り人は。
(お終い)
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