第5話「やぐら」  @百物語2011本編

著:空色 ◆p4Tyoe2BOE  


28 :空色 ◆p4Tyoe2BOE :2011/08/19(金) 21:23:10.66 ID:zf04GSaIO
やぐら(1/2)

友人Aの母親の話。
友人Aの母親が、知人の様子を見に上京ついでに鎌倉に観光に行った時に、某有名やぐらへと行ったそうだ。
フェンスで囲まれた土地を横目に、やぐらへと到着。
『霊域につき撮影禁止』という立て札があるのだが、おばちゃん達は気にせずに中に踏み込み写真を撮ったそうだ。
その瞬間、カメラが動かなくなったそうだ。
シャッターを押しても動かない。
その数瞬前までは普通に撮れていたのに、霊域に踏み込んで写真を撮ろうとした途端だったのでさすがにおばちゃん達も驚いたそうだ。
しかし、小さな祠のようなものがあるだけで、特にめぼしい物があるわけではない。
おばちゃんが記念にと、よりによってそこで白い軽い石を拾って帰ったそうだ。
しかし地元に帰ってきて、すぐさまそのおばちゃんは高熱にうなされる事となった。
病院にも行ったのだが、風邪ではないか?と言われるだけで、原因不明。
三日目におばちゃんから友人A(離れて住んでいる息子)に電話があったそうだ。
「夜になると血まみれの鎧武者と女の人が出てきて、私を殺そうとする」
きっと熱のせいだよ、と友人Aは言ったそうだ。
「違うのよ。だって何回も首も絞められたし」
熱で妄想まで見始めたかと心配になった友人Aは急いで帰郷。
四日でやつれ果てた母親の姿に呆然としたそうだ。彼曰く「あれがとり憑かれてるって奴だ」と言うほどに。
変な手の形に似た痣なども出来ていて、彼は母親の言うことを信じることにした。
けれど原因がわからないので詳しく鎌倉の話を聞くと、白い石が原因ではないかと言うことになった。
「持っていたら危ないかもしれないから、お寺に持ってくよ」
と母親が何故か鏡の前に置いていたのを取り上げて(凄く嫌がったらしい)、近所の寺に持ち込んだそうだが、丁重に供養をお断りされたそうだ。
「人の骨かもしれません。
とても強い怨念があります、こちらではなく鎌倉のしかるべきお寺におさめるほうがいいでしょう」
あと、母親の代わりにとってもきつく怒られたと零していた。
確かにそういった場所から物を持って帰るなどありえない。
そう言われて知人は鎌倉へ向かい、お寺に供養を頼むことにした。

31 :空色 ◆p4Tyoe2BOE :2011/08/19(金) 21:28:35.60 ID:zf04GSaIO
(2/2)
けれど一日で実家と鎌倉の往復は難しくて、東京の自分の家に白い石を一度置くことになったらしい。
骨じゃないかなどと言われたものだけに、薄気味悪い上に、母親が霊を見ているというので怯えつつ、ネットで調べて寝床の周りに盛り塩をして寝ることにしたそうだ。
夜中奇妙な音で目が覚めた友人Aは、つけっぱなしで寝たはずの電気が消えているのに気づいて慌てた。
起き上がって電気をつけようとしたところで、音が近いことに気づいて動けなくなったらしい。カリカリと何かを引っかくような音と、微かな呻き声。
その音が聞こえる玄関には白い石が置いてある。
怖いのは山々だが、このままじゃもっと怖いので友人Aは起き上がって電気をつける為に壁のスイッチへと近づいたそうだ。
「ねぬ……ねぬ…」と呻き声が繰り返す言葉が怖い。そしてスイッチを入れても電気が付かない。
焦りまくった友人は携帯電話を掴むと、とりあえず光源になるだろうと携帯のライトをつけたそうだ。
その瞬間、自分の横に誰か立っているのが見えたらしい。
緑と青と白で鳥の模様だったと後で教えてくれたが、女だと断言していた。
「ねぬねぬねぬ」と繰り返しているのはその女だったと気づいて、携帯を閉じるのも怖くてそのまま電話をかけて誰か友人を呼ぼうとした時に、女がふっと耳元に息を吹きかけてきたらしい。
冷たいくせに焦げ臭かったそうだ。
同時に女が耳元ではっきりと言った。
「死ねぬ」
その声が怖くて、友人Aはそのまま気絶してしまった。
気が付くと朝で、盛り塩はそのままだったが、何故か白い石を握った状態だったという。
起きてすぐに電車に乗ると、鎌倉へ向かったそうだ。
お寺に収めて、同時にお払いもしてもらったと、泣きそうな顔で話してくれたのが印象的だった。
「あとで調べて怖くなった」
と、友人Aは教えてくれた。
某やぐらの在る辺りは八百人近くの人間が死んでいる。
自害も多かったり、かなり悲惨な歴史を残している。
彼は非常識なおばちゃんの行動を責めたが、おばちゃん自身もそんなまねをする人ではないので持ってきたのを家族皆が不思議がったそうだ。白い石を鎌倉に返してからすぐに熱は引いておばちゃんは元気になった。
幽霊もそれっきり見ていないという。