第62話「ありがちな話」 @百物語2011本編
著:Yenn ◆3qDMUSp0ng
「ありがちな話」
深夜のファミレスからの帰り道。
まっすぐな道を、当時の彼氏の自転車の後ろに座って、ぼんやりすすでいた。
ふと顔をあげると、前を先行する自転車が見えた。
ふらふら進んでいて、進行速度は速くないから、このままの直線で追い抜くことになりそう。
よく見ると制服を着ているようで、それが警察のそれに見えた。
彼氏は飲めなくて素面だったけど、さすがに二人乗りで深夜だし、
これは彼氏とめた方がいいかなあと思った。
その直後、アタシが彼氏を止める前に、その自転車は川の手前の脇道にそれた。
フラフラしながら巡回とか大丈夫か?と思って、警官が曲がった道の先を覗き込んだ。
そこはせいぜい20畳ほどの大きさの墓地で、その小さな入り口以外壁に囲まれた行き止まりになっていた。
当然、そこに自転車も警官も、何もない。
アタシは何も言えず、そのまま家まで黙ったままだった。
帰って少し落ち着いて、彼氏に「あの警官、なんだったんだろうね?」と話しかけた。
理屈のつく説明がほしかったし、笑って済ませるならそれで気味悪さを吹き飛ばしたかった。
アタシはその選択を後悔した。
彼には前を行く自転車なんて見えてなかった。
【完】
次