第78話「狐」 @百物語2011本編
著:Yenn ◆3qDMUSp0ng
「狐」
中学生になってすぐの、山の中でのオリエンテーリングで。
五月の半ばで、もうある程度のクラス内の仲間わけはできていて、一人の男の子と仲良くなった。
明るくて頭のいい、テニス部に入ったA君だった。
冷静なツッコミキャラの男の子で、オリエンテーリングの直前に、
教室の窓に片腕を突っ込んで血まみれになるというイベントを起こし、
そのときすでに同学年で知らない人はいなかった。
オリエンテーリング二日目。
外イベントで疲れて、アタシは早々に女子の宿泊部屋に引きこもっていた。
なんだか外が騒がしい。
同室の女の子が部屋にとび込んできて、「アタシさん、ちょっと来て!」と、アタシの手を引いた。
向かった先は男子の宿泊室の一室で、いいのかなと思いながらアタシはそこに足を踏み入れた。
中は二段ベットが四つある、女子と同じ間取りの、いわゆる合宿所みたいな間取りで、
男の子が狭いベットの間でひしめいて上を見てる。
視線の先は、奥の二段ベッドのひとつの上に、四つん這いでこっちを睨むA君。
目つきがおかしい。
威嚇してる猫ってこんなだよねって、なぜか冷静に思った。
アタシは踵を返して、先生のもとへ猛ダッシュした。
その部屋はいやな、獣臭いにおいがしていた。
その後次の日のイベントに、A君はいなかった。
後日、A君にその日のことを聞いたけど、イベントから帰った後記憶がなく、気が付いたら家で寝ていたらしい。
大人になって色んなオカルトな話を聞くようになって、あれが一種の「狐ツキ」といわれる状態なのを知った。
それが精神病なのか、本当に何かが憑いたのか、今となってはわからないけど、
あの生臭いような獣臭いような独特のにおいを、今のところアタシはあの時から嗅いだ事がない。
【完】
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