第82話「におい」  @百物語2011本編

著:炉火  


293 :ゆあ ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 03:39:50.70 ID:hPkmSRgw0
炉火様

におい


「怖い、と言うよりもおかしな話なんだけど」
そう前置きをして男性は当時お付き合いをしていた女性の話をしてくれました。

詳しくは省きますが
最初に「それ」を感じたのは、彼女とベットを共にしている時でした。

彼女の背中から少し離れた空間から
何とも表現しづらい「臭い…?」が漂ってくる事に気がついたんです。
「それ」は彼女の身体から、ではなく
彼女の背後、背中から5〜60㎝程離れた空間から
丁度、人ひとり分の「空間」から
何とも言えない臭いが漂ってくるんです。

驚きはしたものの、まだ付き合い始めて日も浅い事、普段は何も感じる事がなかった事もあり
さほど気にはならない事。当初はそう思っていました。
ただ、肝心な時に限って突然その強烈な臭いが鼻を刺すと、どうしても気持ちが冷めてしまう。
日によってはあまりの強さに吐き気を催した事を必至で悟られないようにもしていました。


日が経つにつれ「それ」は悩みの種になり始めたものの、相手は女性ですから
流石に「君、臭くない?」とも聞けないし、周りに確認してもらうと言うわけにもいかない。

どうしたもんかと周りを様子を気にして見ている時にひとつ気が付いた事がありました。




294 :ゆあ ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 03:40:31.25 ID:hPkmSRgw0
2/2

例えば、友達と写真を撮る時、電車に乗る時、行列に並んでいる時
後ろはおろか周りの人間もそんな素振りは微塵も見せない様に思えた。
我慢している。気を使っている。とかではなく
どうやら「それ」を感じるのは自分だけ。のようなんですよね。
彼女が好意を寄せる男性だけが感じる異臭

その女性、本当に明るくて誰にでも分け隔たりなく接し愛想もいい
よく笑い周りからも悪い評判など聞いた事のないとても素敵な女性だったんですね。

ただ、人間そしらぬ顔をして裏では、過去には、何を持っているかはわかりませんからね。
今思えば臭いで吐きそうになってたのかどうかも疑わしい
女の子の背後からしか匂いがしないドブ臭い
「こいつ、何を背負ってるんだろう・・・」

そう思うと彼女の笑顔に恐怖を感じるようになって遂には別れてしまったそうです。
周りからは「なんてもったいない事を」とずいぶんと責められたそうですが
彼、
彼女の後ろにいるかもしれない「それ」とも付き合っていく事はどうしてもできなかったそうです。

【完】