第83話「無題」 @百物語2011本編
著:しもこし ◆.BBLN94SlQ
夏休み。川下りにはまっていた我々は、友達5人で
遠方の有名な川を下りに行ったのでした。
スタート地点に車を止めて、川下りを始めたのは1時半過ぎ。
水も温かく、流れも穏やか。途中遊びながら、のんびりと行くことにしました。
途中、カヌーが岩にひっかかって随分と時間をロスしてしまったのを除けば
全体として大きな問題も無く、楽しい川下りでした。
ゴールについて、川から上がったのは17時半。
ゴール地点は渓谷の谷底で、500mほど歩いて登った所に電車の駅が一つあるばかりの山奥です。
近くに民家は一つもなく、道路は狭い林道です。
ドライバー役の友達が駅から電車に乗って、上流の駐車場に車を取りに向かうことになりました。
車を取ってきて、皆のボートを積んで、車で撤収するのです。
迎えの車を待つ間の1時間ほど、川で遊びながら時間を潰すことにしました。
しかし、1時間待ち、2時間待っても、一向に迎えの車は来ない。
19時を回ったころには、日はとっぷりと暮れ、林に包まれた川べりは真っ暗になってしまいました。
真っ暗な中を濡れた体で待ち続けるのも辛く、まずは林道まで、歩いて出ることにしました。
川べりから林道までは片側がガケになった狭い未舗装の道路です。
林道に出てさらに2時間。しかしそれでも車は来ない。
最初は単に手間取っているだけだと思っていた私達も、次第に不安になってきました。
車を取りに行った友人に何か重大な事故に巻き込まれたのかもしれない。
しかし、こちらには連絡手段はありません。
9時半を過ぎた頃、流石に待つのも限界だと思い、手がかりを求めて駅に行くと
・・・友人が居ました。
聞けば車をぶつけてしまい、その事故処理をやっていたのだそうです。
ひとまず合流し、まずは電車で車が止めてある場所まで。
そして、皆でご飯をとってから、話し合った結果、車を運転して舟を回収に行くことになりました。
時間は深夜0時。ゴール地点がある駅に向かって車を走らせます。
途中から道は完全に山の中に入り、車1台すれ違えないほどの曲がりくねった狭い山道になりました。
進んでいくと、赤い橋、そしてトンネル。
深夜、人っ子一人居ない民家一つない山奥の赤い橋が、妙に不気味に感じられました。
それでもどうにか駅につき、狭い未舗装路を車で進み川べりへ。
真っ暗闇の中、ハンドルを一歩間違えたら谷底へ落ちてしまう、そんな状況でしたが、どうにか無事
ボートを回収し、戻ってこられました。
時間は深夜1時。流石に寝る時間です。
眠い中運転するのも危険だと考え、その山奥の駅で泊まることを提案しましたが
事故を起こした友達だけは、絶対に嫌だといいます。
途中で見た赤い橋が嫌な感じがした。この川にまつわる恐い話を聞いたことがある・・・などなど。
しかし、結局は深夜眠い中の移動のほうが危険と考え、皆で駅に車を止めて寝ました。
そして、翌朝は何事も無く現地を出発し、地元に帰ってきました。
さて、家に帰って数日後、ウェブニュースを眺めていると
私達が川下りをした6日前
私達が降ったコースで、カヌーにのった女性が
溺れて亡くなったとの記事を見つけました。
そこで急に友人の話を思い出し、気になって調べてみると・・・
途中で見た赤い橋。そしてその先にあったトンネル。
そこは、その地域でも有名な心霊スポットなのだそうです。
そして、私達が最初、車を待ち続けたゴールの水辺。
かつては、上にかかる鉄橋からの飛び降り自殺が絶えず
現在でも毎年のように、その川で観光客の水難事故が起こっているのだそうです。
【おわり】
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