第93話「自慢話」  @百物語2011本編

著:匿名希望  


324 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 04:14:49.97 ID:hPkmSRgw0
匿名希望様


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タイトル「自慢話」


「体験するまでは信じられないって。」
デザイン事務所に勤める吉田さんは都内にある某ビジネスホテルに泊まった。
6時間に及ぶ打合せも無事に終わり、
緊張が解けた彼はクライアントと一緒に酒を飲んだ。
ホテルに入ったのは深夜の2時をまわっていたという。

「スーツぐらいは脱ごうと。でも酒による金縛りってやつか。」

ベッドの上で心地良い睡魔を味わっていたら・・・
ドン!と壁を叩く音が部屋に響いた。
続けて隣の部屋から誰かが壁を何度も叩いた。
吉田は壁を叩き返した。
相手も叩き返してきた。何度かそんな応酬が続いた。

「怒りで睡魔が吹っ飛んだよ。酒というガソリンも入っていたしな。」

怒鳴り声をあげながら部屋を出た。
隣の部屋からも若い女性が出てきた。

「うるせぇんだよ!ハゲオヤジ!!」

酒臭い女は吉田に暴言を吐いた。

「見た目は結構イイ女なんだぜ。その女に糞だの死ねだのと叫ばれてみろ。」

325 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 04:15:31.07 ID:hPkmSRgw0
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意表をつく展開に吉田も圧倒されてしまった。
お構いなしに暴言を吐き続ける女。

「俺は女には優しい。何度も言うがこれも酒が悪いんだ。」

吉田も罵声を浴びせ返した。
しかし女はまったく怯まなかった。お互い罵声を浴びせあった。
つかみ合いの喧嘩になりそうになった時、

「ドン!ドン!ドン!ドン!って、
俺がいた部屋の中からドアを激しく叩く音がしたんだ。」

同時に女の部屋からも誰かがドアを叩いた。二人は声を無くした。
「部屋には誰もいないんだって、意味分んねえよ。
そしたら今度は部屋の中から大声で笑う女の声が。
二つのドアを狂ったように叩きながら笑っているんだぜ!」
同じ女の笑い声が聞こえていたと言う。

「女と一緒に悲鳴を上げながら逃げたよ」

二人は一階にあるフロントに向かって走った。

「これが情動二要因理論てやつだ。
恐怖でドキドキすると恋愛が芽生えやすいという理論なんだけどさ。
それが縁でその女と付合っている。そういう現象は本当にあるんだって。」

吉田は自慢げに笑った。

【完】