第97話「想定外」  @百物語2011本編

著:匿名希望  


339 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 04:52:43.38 ID:hPkmSRgw0
匿名希望様

タイトル「想定外」
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建設関係の仕事をしている川村さんは朝が弱い。
早朝から工事がある日は、
同じく朝が弱い会社の先輩と遅刻をしないように前夜から現場に入る事がよくあった。
先輩のセダンで仮眠をとる事が多かったという。
霊園での早朝からの仕事が入る。
いつものように前夜現場に入り霊園の駐車場にセダンを止めた。

「お化けに喧嘩を売ってくるわ。いるなら出るよな。お前も来い。」

元ヤンキーでちょっと歯が溶けている先輩はたまに突拍子も無い行動をとることがある。
時計を見ると午前一時を少し回っている。
誰もいないこの駐車場でも気味悪いのに墓場に入るなんて御免だ。

<若い頃やったシンナーで脳味噌がトロケてるから>

バカな事をやった時の先輩の口癖だ。
罰当たりな行為をしそうなので断った。

先輩は妙なテンションの雄叫びをあげながら車から飛び出すと、
転々と設置された街灯の向こう側にある墓地の闇の中へと消えていった。

五分も経たないうちに墓場から全力疾走で戻って来るのが見えた。
下半身は裸だ。
先輩は本当にバカだ。悲しくなる。
先輩は大きめのナニを激しく上下させなから車に向かって走って来る。
無表情なのに目だけが血走った姿には殺気すら感じた。


340 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 04:53:25.75 ID:hPkmSRgw0
2/2

スピードを落とさず全力疾走で突っ込んでくる。
ドンッ!と車のボンネットに飛び乗ると、そのまま屋根を乗り越えて後ろに走って行った。
愛車が命だと豪語していた先輩とは思えない行為だ。
あっけにとられながら走り去っていく先輩を凝視した。
背中に視線を感じて振りかえる。
前方の闇から青白く輝くドッヂボール大の塊が二つ、車を目掛けて飛んでくるのが目に入った。
その光の塊は先輩を追うように同じ軌道で飛んで来る。
一つはフロントガラスギリギリで上空へと飛び上がったが、後一つはボン!とフロントガラスに激突した。
水で膨らませた風船を地面に叩きつけた様に割れたという。
ビシャッと青白い粘着質な液体がフロントガラスに広がると蒸発するように消えていった。
一人でいるのは怖い。この場から逃げたいがエンジンが掛らない。
先輩を追う為にドアを開けると車内灯がついた。
フロントガラスで青い塊が弾けた場所に顔の跡があった。
脂汗で濡れた顔面を必死に押しつけた様な生々しい顔の跡がハッキリと分かる。
押し潰された鼻、見開かれた両目、そして大きく開いた口。
その表情はフロントガラスに激突することが想定外で驚いるように見えた。

結局墓場で何があったのかは記憶が無いからと教えてもらえなかったという。
霊園の入り口前で震えていた下半身むき出しの先輩は高熱を出して一週間も会社を休んだ。
罰が当たるとは先輩も想定外だったのは確かなようだ。


341 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/20(土) 04:54:24.34 ID:hPkmSRgw0
【完】